他言語での大学受験まとめ

大学受験を英語以外の言語(フランス語、ドイツ語、中国語)で受ける「他言語受験」についての情報をまとめています。記事執筆者は全員、この形式の受験の経験者です。

🇨🇳東京大学二次試験について

執筆者:MT

 

※注意※

以下の記事は2020年度に受験した中の人が書いたものであり、主観的な内容も一部含まれます。また、最新の情報は必ずご自身で、大学のホームページにて確認してください。

  

まず、東大は差し替え(大問1~3を英語、大問4、5を中国語)で受験できるし全部中国語で受験することもできます。差し替えでは英語のリスニングを回避できませんが全部中国語受験だとリスニングはなくなります(中国語も)

○私の中国語力
記事の信憑性の参考にしてください。(ただし資格試験と東大の問題は傾向がかなり違います)
高2で中検1級に合格(リスニング98、筆記90、満点は両方100)
高3でHSK6級288スコア(満点300スコア)
東大入試中国語93/120点

○過去問の入手
東大新聞の「前期入試問題解答号」に載っていることが多い(許可が取れず載っていない年も多い、またほとんどの年で売り切れていて購入するなら急ぐべき。生徒の自作解答がのっているが非公式で間違いもたまに見られるがほとんどは合っているので信用できる)。また東大で中国語受験した先輩から裏ルートで入手できる(15年分ほどあり)


○難易度
中国語検定1級(年1回実施、合格率1~5%)なみの翻訳力と長文読解力、および中国語検定準1級(合格率15%前後)の語彙力(成語量は準1の半分程度)が必要である。しかし近年の第一問評論文は中検1級をはるかに超える難度で2019、2020は中検1級の文章難易度の3倍は難しい(言語的に難しいのでなく内容的に難しい)。ただしそれ以前の文章は中検1級よりちょっと難しいか同じ程度である。

○分量
上記のように0から勉強を始めるとしたら難易度は極めて高いと思われるが実際は0から勉強して受ける人はほとんどいないく、ネイティブの受験が多く、分量は英語のように多いわけではなく、時間配分を間違えなければ時間内に解ききれないことはない。(しかし2020年度の出題は分量も多く難易度も高く時間切れになりやすい)単純に翻訳しにくい慣用句が少し入っていたりする質的な難しさが目立つ。ただし翻訳量が多いのでだらだら解いていたら当然時間切れになる。

○問題構成
第一問:200字要約
文章量

<分析>

文章字数(大体の値です)
2020年   36字×27

平成31   36字×30行(過去最多:約1100字)
  30   36×19行

  28   36×24行

  27   36×21行

  26   36×23行

  25   36×23行

  24   36×16行

  23   36×22行
見ての通り分量は2019と2020で増加傾向であるが、この先どうなるかは不明。
また最近は文章自体の難易度が上がり、2020年は「文化現象を研究する際の注意点と地域文化に潜む国家概念」という内容の抽象的な文章が出題された。語彙自体は大して難化していない。

第二問:和文中訳
分量は不安定だが2020では400字程度の日本語の文章。少ない年は200字程度になることもある。文章難易度は年による。

第三問:文法問題
主な出題内容は
漢字の読み書き、ピンイン、成語の訳、やや長く難度の高い並べ替え、穴埋め、段落整序
並べ替え問題と成語(四字の故事成語)訳はかなり難しいがそれ以外はネイティブなら9割正解を狙える。

第四問:中文和訳

分量は不安定だが2020は220字程度。多い年は300字以上、少ない年は200字前後である。
小説の訳が多いため難易度はやや高めである。たまに「山墙(訳:妻側)」のようにどう考えても訳せない難単語が紛れているのでそれは捨てるか意訳するかごまかす。

第五問:文法問題(稀)or 並べ替え問題(近年はほとんどこれ)
かつては文法問題として作文(例:反復疑問文を用いて作文せよ)が出題された年が3年ほどあったが最近は消滅し、ほとんど並べ替え+訳(ない年も多い)である。以前はやや簡単な並べ替え問題が主流で他と比べて圧倒的に簡単な大問で点数の稼ぎどころであった。しかし残念なことに近年ではこの大問も難易度があがり、並べ替えの完答はネイティブでもかなり厳しくなった。そしてそれと同時に簡単な大問が消滅したことで非ネイティブ受験は一層困難となっている。


○ネット上の情報の信頼性について
ネットでは「英語より簡単」、「2外履修程度で高得点が取れる」など、素人(または中国語初心者、具体的には中検2級以下、HSK6級240点以下)の解答が散見されるが、実際中国語検定1級を体験した私から言わせてみると8割(96点)とるのはかなりきつい内容である。実際一個上の先輩と今年の受験生でもまだ8割越えは観測していない。くれぐれもネット情報を鵜呑みにしないで過去問をみて難易度を自分で体感してもらいたい(ただし逆にネイティブなら60点は固い内容である。合格者で70点以下はほぼいない。不合格者ではいるかもしれないが)。ではなぜこのような簡単だと言う人がいるのだろうか。それは彼らの採点基準の低さが原因だと思われる。彼らはわからないところは適当に意訳したりしてごまかしても減点されないと想定したり、並べ替えも自分の間違った解答が正しいと思い込んでしまいやすい(正解が公表されないので自分の答えが正しいと思い込み続けるのだろう)からだろう。しかし実際中国語受験者はほぼネイティブで、相対的に採点はきつくなるのが常識であるため、少しのミスでも減点される覚悟が必要だ。(ただし開示を見ると採点はそこまで厳しいわけでもないと思われる、おそらく英語と同程度か若干甘いくらいの厳しさ。)
英語の平均点である75/120点を取るのも中国語がペラペラであるのが大前提である。中検2級も取れないような生徒が受けても悲惨な結果(45点以下)になると思われる。

○難しい要因
難易度のほとんどは翻訳問題に由来する。東大はかなり古い小説の原文をそのまま翻訳させることがある。もちろん翻訳しやすい場所を選んで出題していると思われるがそれでもかなりきつい内容だ。受験期に中国の小説を読むひまがある受験生はほぼいないので日常で中国語を使い慣れている生徒でも翻訳はスムーズにいかないことが多い。実は中国語に翻訳しにくい微妙なニュアンスの日本語や、逆に日本語にしにくい中国語が散見されるところが厄介であり、必然的に意訳になりがちなうえ、翻訳の分量も英語の和訳よりはるかに多い(もちろん全体的な問題量は英語より少ない)。また外国語はある程度の実力(ペラペラレベル)になれば、長文読解は一番簡単になり、翻訳が一番厄介となる。東大はまさにその厄介な部分を出題してくる。また文法問題も並べ替えといえども中国語にしては時間を食う内容である。(もちろん簡単な年はかなり簡単であるが当たり外れが大きい)また中国語は方言による違いが大きく、そういうところは本来出題するべきではないのだが東大ではかなり細かい単語が出題されたこともある。(例:挺括)また英語のように「聞かれる文法」が固定されていない。学習指導要領がない以上、文法問題の対策は非常にしにくい(ネイティブにとってはかえってここが一番きついかもしれない。)また東大の最後の差し替えの文法問題は並べ替えが主だが、難しい年にあたったらネイティブでもかなり難しい。(実際中国語ネイティブで半分程度の正解率の人もいる。満点ももちろんいるが。)こればかりは中国語を知らない人には共感してもらえないだろうが中検経験者が解いてみればわかるはずだ。並べ替えたうえで翻訳させることもある。また200字要約の文章は高難度なもので、中検1級の長文よりも難易度は高い。またリスニングがないため簡単だといわれるがネイティブにとってリスニングは稼ぎどころである(中検1級のような高速ディクテーションを除く)。リスニングを無くして翻訳を増やしているのはかえって試験を難しくしているといえる。

○中国語受験がオススメな人の条件(75点以上とることを想定)
・ネイティブかそれに近いレベルであること
簡体字が書けること(「だいたい書ける」程度ではなく中国の標準的な高校生(受験期の高校生は大人よりも漢字が書ける傾向にある)が知っている漢字の7割程度を書けるくらい)
・日本と中国の慣用句・ことわざ・成語の意味を正確に知っているうえでそれを意訳でもいいから訳せる
・英語でどう頑張っても60/120点を超えられない(あるいは頑張りたくない)
・中国語検定準1級以上をとれる(HSKは6級で260以上はないときつい。中検準1級ギリギリ合格だときつい部分もあるかもしれない)
・方言ではなく標準語に毎日触れていること(しかし有名な方言で標準語化しているものは覚えるべき)
0から学んだ純日本人にはお勧めできない(家で毎日使っていたりしているなら別)
大学で4年間勉強した程度では受験しないほうが良い(難しい年は50点取れるかどうかの点数になる)

○近年の難化
さらにひどいのが近年の東大中国語の著しい難化である。特に第一問の要約がもはや語学の範囲を超えており現代文の中国語版だと評価されている(東大新聞)。実際私も要約は自己採点で半分行ってないくらいだと感じ、ネイティブでないと三分の一の点数すら取れないだろう(2020年は)。
特に2020年度は全体的に見ると他の年度より難しいセットで、第3問に成語の訳(過去にも数回)が登場し難化、最後の並べ替えも語数が多い上時間がかかり、細かい順序の違いが許容されるかで難易度が変わるが、原文と全く一緒な並びにするにはネイティブ以上の知識が必要(というか運、身の回りのネイティブにみせても間違えていた)、また肃静(suが正解でshuはダメ)のようにピンインのひっかけも多く、ネイティブは日本の「歩」と中国の「步」の違いなどを認識していないことも多く、やや難。第2問は「ミシン」「一ひねりした」「近代的解釈(英語だと簡単だが中国語にはしっくりくる訳がなく案外困る)」「熱弁」「謳い文句」などの難訳単語のほか、分量が過去何年かで見ないほど多く、難化。第4問の翻訳は古風の文章で、方言も散見され、「玉蜀黍」がトウモロコシであることは推測不可能とは言わないが、確信を持てる人はネイティブでも2割以下で、本番では迷うことだろう(ネイティブは普通「玉米」を使う)。また方言要素の強い出題は望ましくないことはいつも通りで、古風の文章の出題も中国語試験としては望ましくなく感じる。そして最強の難訳単語が「一拃」で、このような単位は日本になく、訳は「手で測った寸法単位」となるがそれで訳すと意味不明になる。よって東大新聞では「手のひらほどの高さ」と意訳しているが許容されるかは謎だ。また本番の緊張では文が小説の一部分であるということを意識できず細かいミスが出やすい。「白布衫(白い布のシャツ)」「 烫着」「 这当儿」「 蓄满的燥热」「 三尺五尺」「 揉成一团」「 几星」「 凉浸浸的淫了上半身」はいずれも難訳。第5問の並べ替えは例年より難しく、ネイティブ(私の両親)も7割くらいしか正解していなかった。東大新聞の解答も1番は間違っており、「十来人」は普通使わない表現で正解は「十来个人还没地方坐,再搬一些椅子来」だと思われる(自信なし)。難しい要因は「語数の多さ」「中国語の文法の不厳密性」「並べ替え問題の参考書が皆無なこと」があげられる。もともと中国語の文法は英語のように厳密でないため並べ替えは難易度が高く(何より時間がかかる)、中検の並べ替えのように簡単ならまだしも東大の並べ替えは語数が多すぎる。日本語で言うと
「あなた、論破、は、する、口達者な、できない、は、どんなに、は、人、彼女を、こと、でも、おろか」
を並べ替えなさいみたいなものだ。
そしてなによりも第一問の難化だ。実は2019年も第一問は難しいが今年の問題は中国語のネイティブ(中国在住)10人くらいのチャットグループに見せたところ「中国の国語より難しい(さすがに冗談だと思う)」「なにを言ってるのかわかりにくい」などの評価を得た。これを日本人(中国語ネイティブではあるが)にとかせるのはやや無理がある。
実際2020年の中国語を受けた私からすると自己採点は80点くらいであった(得点開示で93点と判明。採点は意外と甘い可能性が高いor難化したから得点調整されたか)。いろいろミスしたこともあるがかなり難しいと感じた。最後の並べ替えは満点か1ミス、第三問は9割正解だと思うが、翻訳問題と要約問題で半分くらいしか取れていないと思う。

○採点基準
問題の難易度に合わせて変わっていると思われるが全体的にはそこまで厳しくないと思われる。おそらく文章をいくつかのブロックに分けてブロックごとに点数を与えていると考えられる。

○一言
中国語の難易度自体はかなり高いと思われる(が、英語はみな0から学んでいるためそれを考えると英語のほうが難しい)。過去のインタークラスの中国語のネイティブでも普通に英語受験した生徒も多い。そして先輩に聞いたところ近年の難化は確かだそうで、中国語受験した先輩たちもほとんどネイティブかニアネイティブであった。点数は大体80~90に集中するようである(そもそも75点以上取らないと英語以外を選ぶ意味がなくなる)。また、将来的に英語は必ず必要なので、中国語で受けるからといって英語を勉強しないのは得策ではない。となると結局英語も勉強するのだから英語で受けたほうがいいことになる。よって個人的には英語でうける前提で差し替えで中国語を使うべきだと思う


本来なら中国語受験者を増やしたいのだが予想外の失敗を避けるためにもある程度の実力は必要である。